健康保険の基本:国民健康保険・健康保険・協会けんぽ・関東IT健保の違い
日本の公的医療保険制度(国民健康保険、健康保険、協会けんぽ、関東ITソフトウェア健康保険組合)の違いを、初めての人にも分かりやすく整理しました。
はじめに
「自分はどの健康保険に入っているのか」「フリーランスになったら保険はどう変わるのか」など、健康保険まわりは意外と分かりにくいテーマです。 この記事では、日本の公的医療保険制度のうち、
- 国民健康保険
- 健康保険(会社員向けの保険)
- 協会けんぽ
- 健康保険組合(例:関東ITソフトウェア健康保険組合)
の違いを、できるだけシンプルに整理して解説します。
日本の医療保険の「ざっくり全体像」
日本では、原則として「すべての人が何らかの公的医療保険に入ること」になっています。大きく分けると次の2グループです。
- 国民健康保険:自営業・フリーランス・無職などが入る保険
- 健康保険(被用者保険):会社員・公務員など、給料をもらって働く人が入る保険
どの制度に入っていても、病院の窓口での自己負担は原則「3割」です。 ただし、保険料の計算方法や、追加の給付・福利厚生が制度によって大きく違います。
国民健康保険とは
対象
国民健康保険(国保)は、おおまかに言うと 「会社の健康保険に入っていない人が入る保険」 です。
- 自営業・フリーランス
- パート・アルバイトで勤務先の社会保険に入っていない人
- 退職して会社の健康保険をやめた人(任意継続終了後など)
などが主な対象です。
運営主体
- 市区町村(自治体)が運営
- 一部、「国民健康保険組合」が運営するケースもあります(医師会などの職能団体)
保険料
- 前年の所得や世帯人数などから計算されます
- 住んでいる自治体によって保険料率や上限額が異なります
特徴
- 転職・独立・退職のタイミングで「とりあえず入る」ことになるケースが多い
- 自分で役所に行って手続きをする必要がある
会社員が入る「健康保険」とは
会社から給料をもらって働く人は、原則として 勤務先を通じて「健康保険」に加入 します。 ここでいう健康保険には、大きく分けて次の2種類があります。
- 協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)
- 健康保険組合(大企業や業界団体が独自に運営するもの)
関東ITソフトウェア健康保険組合(関東IT健保)は、2つ目の「健康保険組合」に属するものです。
協会けんぽとは
対象
- 中小企業など、一般的な会社に勤める人が多く加入
- 会社が「協会けんぽ」に加入している場合、その会社の従業員も協会けんぽに加入する
運営
- 「全国健康保険協会(協会けんぽ)」が運営
- 都道府県ごとに支部があり、保険料率などが若干異なります (詳しくは 協会けんぽ公式サイト(都道府県支部のページ) を参照)
保険料
- 給料(標準報酬月額)に応じて 一定の保険料率 をかけて計算
- 会社と本人でおおよそ 半分ずつ負担
特徴
- 加入や脱退の手続きは 会社が行う ので、個人はあまり意識しなくてもよい
- 給付内容や仕組みは「標準的」で、全国的に整備されている
協会けんぽの加入方法(事業主向け)
協会けんぽへの加入手続きは、事業主(会社側)が行う のが基本です。新しく会社を作った場合や、これまで社会保険に入っていなかった事業所が条件を満たした場合は、次のような流れになります。
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自社が「適用事業所」に当たるか確認する
- 法人(株式会社・合同会社など)は、原則として従業員が一人でもいれば対象
- 個人事業の場合は、常時使用する従業員が5人以上いる特定業種などが対象
- ここでいう「年金事務所」は、協会けんぽの支部ではなく、日本年金機構の年金事務所(会社所在地を管轄する事務所) のことです。
- 具体的には、日本年金機構の公式サイトにある「年金事務所を探す」ページで、会社所在地の郵便番号や住所から管轄事務所を検索し、その事務所に相談・届出を行います。
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新規適用の届出をする
- 所轄の年金事務所に、 「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を提出します。
- 併せて、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)や賃貸契約書、従業員名簿・賃金台帳などの提出を求められることがあります。
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従業員ごとに「資格取得届」を出す
- 従業員を健康保険・厚生年金に加入させるため、 「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」を従業員ごとに提出します。
- 氏名・生年月日・マイナンバー・雇用日・報酬月額などを記載します。
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保険証の交付と運用開始
- 手続きが受理されると、一定期間後に健康保険証が事業所あてに送付されます。
- 従業員に配布し、医療機関の窓口で利用できるようになります。
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毎月の保険料を納付する
- 会社は毎月、従業員の給料から保険料を天引きし、会社負担分と合わせてまとめて納付 します。
- 納付方法は、口座振替や納付書などから選択できます。
一人法人(役員1名・扶養なし)の場合の協会けんぽ加入イメージ
ここでは、自分ひとりで会社を立ち上げた場合(役員1名・扶養家族なし) に、協会けんぽに入るときのイメージをシンプルにまとめます。
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提出先
- 会社所在地を管轄する 年金事務所(日本年金機構)
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条件(ざっくり)
- 株式会社・合同会社などの 法人であること
- 代表取締役(自分)が会社から 役員報酬(給料)を受け取る予定があること
- 法人は、従業員が自分ひとりでも「社会保険の適用事業所」となるのが原則 (詳しい判断は年金事務所で確認するのがおすすめです)
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必要書類の例 実際に求められる書類は年金事務所の指示によりますが、おおむね次のようなものが必要になります。
- 「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」
- 代表者(自分)の「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届」
- 会社の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)
- 事務所の所在地が分かる書類(賃貸契約書など)
- 役員報酬の金額が分かる書類(議事録や給与台帳の写し、予定としての記載 など)
これらの届出書は、freee人事労務 などのクラウド人事労務ソフトで PDF を自動作成し、印刷して提出することもできます。
一人法人の場合、「会社としての加入」と「自分自身を被保険者として届け出る」手続きがセット になるイメージです。 不安なときは、年金事務所に「一人法人で社会保険に入りたい」と伝えると、必要書類や書き方を案内してもらえます。
健康保険組合とは
協会けんぽとは別に、大企業や特定の業界団体が独自に設立した健康保険が「健康保険組合」です。
対象
- 一定規模以上の企業が単独で運営する「単一健保」
- 同じ業種の企業が集まって運営する「総合健保」
などがあり、その企業・団体に所属する従業員が加入します。
協会けんぽとの違い(一般的な傾向)
- 保険料率が独自に設定されており、協会けんぽより安いケースも多い
- 「付加給付」と呼ばれる独自の給付があり、高額療養費の自己負担分がさらに軽くなることも
- 保養所・スポーツクラブ・人間ドック補助など、福利厚生サービスが充実している場合がある
関東ITソフトウェア健康保険組合(関東IT健保)とは
関東ITソフトウェア健康保険組合(通称:関東IT健保)は、 IT・ソフトウェア・情報サービス系の企業が加入できる健康保険組合 です。
対象
- 関東IT健保に加入している企業に勤める社員と、その扶養家族
- 個人が直接申し込むのではなく、会社が関東IT健保に加入しているかどうか で決まる
加入条件(ざっくり)
関東IT健保に新たに加入したい事業所には、次のような条件があります(概要)。
- 事業内容が、ソフトウェア開発・システム開発、情報処理サービス、IT関連の人材派遣など、 情報サービス・ソフトウェア関連業務を主な事業としていること
- 登記上の「会社目的」に、これらの業務内容が明記されていること
- 売上の多くが情報サービス業によるものであること など
詳細な基準や必要書類、審査の流れは、公式サイトに最新情報が掲載されています。 加入を検討する場合は、必ず 関東ITソフトウェア健康保険組合の加入基準ページ を確認してください。
一般的に言われる特徴
※以下は「一般的なイメージ」であり、詳細は必ず公式情報を確認してください。
- 協会けんぽと比べて、保険料率が比較的低め に設定されていることが多い
- 高額療養費に対する 付加給付が手厚い とされる
- 保養施設やレジャー・フィットネス関連の 福利厚生が豊富 なことで知られている
人事労務まわりで「毎月」発生する主な業務(ざっくり)
ここまで健康保険の制度を中心に見てきましたが、実際に会社を運営していくうえでは、人事労務まわりで毎月こなすルーティン業務がいくつかあります。 小さな一人法人(役員1名・扶養なし)をイメージすると、代表的なものは次のとおりです。
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給与計算(役員報酬の計算)
- 支給額から、社会保険料(健康保険・厚生年金)と源泉所得税を差し引いて、手取り額を計算します。
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社会保険料の納付(健康保険・厚生年金保険料)
- 前月の給与をもとに計算された保険料を、会社負担分+個人負担分をまとめて 日本年金機構あてに納付します(通常は翌月末まで)。
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源泉所得税の納付
- 給与・役員報酬から天引きした源泉所得税を、原則として 翌月10日まで に納付します。
- 従業員が常時9人以下などの条件を満たせば、「納期の特例」で半年に1回(7月と翌年1月)にまとめて納付することもできます。
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住民税(特別徴収)の天引きと納付(該当する場合)
- 従業員を雇っていて住民税を特別徴収している場合は、給与から天引きし、自治体に毎月納付します。
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勤怠・労働時間の確認(従業員がいる場合)
- 残業時間が過大になっていないか、労働時間の上限を超えていないかなどをチェックし、必要に応じてシフトや業務量を調整します。
このほか、入退社や役員変更があった月は、資格取得・資格喪失の届出 などが「そのときだけ」追加で発生します。 クラウド型の給与・人事労務ソフト(freee人事労務など)を使うと、これらの毎月業務をひとまとめに管理しやすくなります。
自分はどれに入るべき?ざっくり判断の目安
最後に、よくあるケースをまとめます。
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フリーランス・個人事業主として働く予定 → 住民票のある市区町村で 国民健康保険 に加入
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一般的な中小企業に就職する → 勤務先が協会けんぽ加入企業なら 協会けんぽ
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IT企業などで、「当社は関東IT健保に加入しています」と言われた → その会社に入社すると、自動的に 関東ITソフトウェア健康保険組合 に加入
重要なのは、「自分で自由にすべてを選べるわけではなく、働き方や所属する会社によって保険制度が決まる」という点です。
おわりに
健康保険は、普段はあまり意識しませんが、病気やケガ、出産、退職などのタイミングで大きく関わってきます。 どの制度に入っているかを一度整理しておくと、いざというときに慌てずに済みます。
勤務先の総務・人事や、お住まいの自治体の窓口でも相談できますので、 「自分のケースだとどうなるのか」を早めに確認しておくのがおすすめです。